服地パイセン

生地にうるさい服屋で学んだことを活かし、洋服のわかりづらいことをわかりやすく解説します。

水沢ダウンのマウンテニアを毎年仕事で着るけど、2022年も2023年も買わない理由は◯◯です。

水沢ダウンのマウンテニアは何がすごいのか

こんにちは。 洋服の生地についてのブログを書いています、服地パイセンです。

 

仕事で水沢ダウンのマウンテニアを着る機会が毎年あります。
定期的に仕様やカラーバリエーションの変更があり、その度に「良いダウンだなぁ」と思います。

ですが、僕は買いません。

所有してみて初めてわかることもあると思うのですが、たぶんこの先も買わないと思います。
デザインもかっこいいし、品質もすごく良いものだなぁとは思うんですけどね。

 

水沢ダウンに付いてくるギャランティカード兼説明書を参考に、僕が着てみて思う感想を正直に書いてみます。

 

(2023年8月追記)

2023年モデルからサイズ感に変更がありました。
トレンドに合わせて身幅が少し大きめにリニューアルされています。
基本的な機能面に変更はありませんので、2023年モデルであっても本記事の内容は参考になると思います。

 

 

 

 

 

 

水沢ダウンとは

デサント水沢ダウンマウンテニアのフロント

水沢ダウンで『デサント』というブランドの存在を知った人は多いのではないでしょうか。

 

新しいブランドと思っている人は案外多いようですが、
ブランド自体は1950年代から展開している歴史あるブランドです。

ユニフォームやジャージなどのスポーツウェアを作っていて、少し古めの日本製のアディダスのジャージなど、デサント社製のものが出てきたりします。

 

そんなデサントの水沢ダウンは、岩手県奥羽山脈のふもとの大自然に囲まれたデサントアパレル水沢工場の最先端縫製技術を駆使して生産されるダウンウェアです。

 

従来のダウンウエアは雨や雪などに弱く、ステッチの針穴から水が浸入し羽毛が濡れてしまうことで、十分な空気層が確保できず保温性が保たれない。

またステッチ部分の隙間からダウンが吹き出しやすいなどの欠点がありました。

 

こうした『ダウンウエアの欠点を克服する』というアプローチで2008年にスタートします。

 

これまでのダウンジャケットにない機能性をもつ水沢ダウンは、2010年バンクーバー冬季オリンピックにおいて日本選手団の公式ウエアとして正式採用されます。
その機能性は日本のみならず世界でも高い評価を受け、これまで国内外で数々のデザイン賞を受賞し、今では日本を代表するダウンジャケットといってもいいと思います。

 

ダウンジャケットにつかわれる羽毛の特性。

ダウンの暖かさは、羽毛が動かない空気を作り出すことで成り立ちます。
羽毛だから暖かいのではなく、羽毛が空気の層を作ってくれるから暖かいのです。

空気は熱伝導率が低く熱を逃がしにくいため、大きな保温性を発揮します。

 

また羽毛から放射状に伸びた細かな羽枝には産毛のような細かい毛が存在し、多くの空気を含むことが出来るので、かさがあり非常に軽量です。


羽毛は、ウールと同じように動物性たんぱく質で構成されています。
このためウールと同様、吸湿性に優れ、さらに発散性にも優れ、衣服内の湿度をコントロールする機能があります。


綿などと違って、湿気を吸っても蒸れ感や冷感を伝えにくいのが大きな特徴です。

 

水沢ダウンのフィルパワーは?

ダウンはどれだけ膨らむかで空気を溜め込める量が決まります。
水沢ダウンは750FPのトレーサビリティダウンを使用しています。これはなかなか良いダウンです。
トレーサビリティダウンは追跡可能なダウンのことで、持続可能な社会の実現に向けたサステナブルなダウンのことです。

 

水沢ダウンマウンテニアのディテールと機能性

極寒の冬季オリンピックの公式ウェアにも使われるほど、ハイスペックな水沢ダウン。
そのディテールをみていきます。

 

『シームレス』が生み出す快適性

デサント水沢ダウンのシームレス

ダウンジャケットはステッチをなくすことで、弱点を克服できます。
水沢ダウンマウンテニアでは、大きく二つ、シームレスの仕様があります。

 

熱接着ノンキルト製法

水沢ダウンの最大の特徴は、ダウンパックを特殊熱接着加工で処理した製法です。

 

ダウンジャケットというものは『ダウンパック』といって、表地とダウンをミシンで縫って、ダウンがずれないようにしているのが通常です。

 

軽くて保温性が高いダウンも一つ欠点があります。
雨がふると縫い目から水がはいってしまい、ダウンの保温性が損なわれてしまうということです。

 

要するにダウンは雨に弱いアウターなんです。

 

それを表地とダウンを熱で圧着することで、縫い目のないダウンにしています。
それにより、羽毛が吹き出すのも防いでくれます。

 

シームテープ加工

服にはパーツを縫い合わせる縫製が必要です。

 

ダウンと表地を圧着することで表面のステッチはなくせますが、肩線や袖ぐり、脇などどうしても縫製が必要な箇所はあります。

 

そういうところには、縫製後に裏面からシームテープ加工を施すことで、針穴からの水の侵入を防ぐように工夫されています。
簡単にいうと、縫い目にフタをしているような感じです。フタがあるので水がはいってきません。

 

本来はアウトドアのアウターに見られるディテールです。
さすがスポーツブランドのデサント。ノウハウを活かした新しい物づくりをしています。

細部まで防水する止水ジップ

デサントオルテラインは止水ジップの仕様

止水ジップ自体は珍しいものではありませんが、ここもしっかり水の侵入を防ぐように工夫されています。

 

前立てファスナーや脇ポケットファスナーにはファスナーテープの表面をポリウレタンフィルムでラミネートし、止水性を持たせる処理を施し、水の侵入を防ぎます。

 

温度や湿度を調節する二つのベンチレーション

冬とはいえ、衣服の中は蒸れやすいです。
ある程度湿度はあった方がいいのですが、蒸れてしまうと、冷えにつながります。

 

アウトドアシーンにおいて、冷えは致命傷になることがあります。

なので蒸気と熱を逃がすためのベンチレーションという換気するための通気口のようなディテールがあります。

水沢ダウンはベンチレーションを2種類配備して衣服内を快適に保てるよう工夫されています。

 

デュアルジップベンチレーション

フロントジッパーが2列あり、その間に配置されたメッシュ素材は衣服内にこもりやすい不快な熱や湿気を逃がしてくれます。

 

ピットベンチレーション

水沢ダウンのベンチレーション

衣服内にこもった熱を素早く換気するための脇下のジッパー。
フロント部分に設けられたデュアルジップベンチレーションとの相乗効果で効率よく衣服内の熱を放出します。

特殊な蓄熱素材ヒートナビ

水沢ダウンの裏地のヒートナビ

蓄熱保温素材のヒートナビは、クリーンエネルギーである太陽光を熱へと変換し積極的な保温性能を発揮します。


太陽光の全波長を吸収して熱に変換するデサントのヒートナビは、プラス5度という圧倒的な保温効果を実現しています。

発電などに使われるように、太陽光は大きなエネルギー。

光を熱に変換する蓄熱素材は、ほとんどが赤外線に反応して蓄熱するものです。

 

そんな中ヒートナビは、全波長を熱に変えることを実現したんです。
ヒートナビ糸の中には、全波長を熱に変える特殊な素材が入っています。

水沢ダウンのヒートナビの仕組み

 

そして糸の形状も、光にあたる表面積を大きくするように、特殊な扁平断面にすることで蓄熱性がアップしたようです。

 

要するに、蓄熱性を上げるために繊維の素材や形状といった目に見えないところまで研究して作っているということです。

 

パラフード

雨や雪など悪天候下での着用も考慮し、フードに水や雪だまりを防ぐデサントのオリジナル機能。
特殊なジッパーで閉じているフードは、クイックアクションで開口が可能です。

 

通常、ジッパーを開けるにはスライダーを根元まで戻して外します。
パラフードは逆にスライダーを最後まで押し込むと、フードのチャックが開くという変わった仕様です。
言葉では説明が難しいですね。

 

要するにこの機能は、フードのジッパーを片手で開けることができるというものです。

触ったことはないんですけど、アクロニウムのエスケープジップのような感じです。

 

マウンテニアは高機能生地のダーミザクスを使用

ダーミザクスは東レの高機能スポーツファブリックです。

スポーツファブリックと聞くと、安っぽ印象を受けますが、全くそんなことはありません。


伸縮性があり、軽量でしなやかな風合いは街着としても使えて、登山、アウトドア、ウインタースポーツなど過酷な環境下で行うスポーツにも最適な素材です。

ダーミザクスの特徴
  • 優れた防水性、防風性と耐久撥水性
  • 特殊無孔質メンブレンが高耐水圧性と高い透水性を実現
  • 低結露性
  • ソフトでしなやかな風合い

 

その他にも機能的なディテールがたくさん

そのほかにも説明しきれないほど、機能がたくさんあります。

 

裾のパウダースカートや二重構造の袖は冷気の侵入を防いだり、防水性が高すぎるために設けられた洗濯時の排水バルブなど、機能がてんこ盛りです。

 

 

 

僕が思う水沢ダウンのメリットとデメリット

ここまで機能を細かく説明しましたが、
すごいところと疑問に思うところをひとつずつ書いてみます。

 

メリット(すごいところ):革新的な技術で新たなジャンルを切り拓いた存在である

メリットといえる部分は、各ディテールの説明で書いた内容と重複してしまうので、自分の感じるすごいところを書いてみます。

 

これまでの常識を覆した水沢ダウンは、ダウンウエアに雨や雪の日でも快適に着用できるという新しい価値を創造しました

 

デサントオルテラインの『あらゆる地形に対応する』というコンセプト通り、機能面からデザイン面まで、都会からアウトドアまでの環境に対応した万能な存在です。

 

リリース当初は革新的なアイテムだなぁと思ってました。

というのも、
ストレッチ生地で撥水性のあるダウンジャケットというものは、水沢ダウンが誕生するまで、存在しなかったと思います。

今でこそ、プレミアムダウンやアウトドアなどのトレンドもあり、いろんなブランドが大なり小なり真似をしてますが(参考にしているといった方が正しい)、間違いなくこのジャンルの開拓者です。

 

デメリット(疑問に思うところ):劣化しやすいポリウレタンを使用している

シームレスの要である、熱接着で縫い目をなくす水沢ダウンらしい仕様。

 

この接着にはポリウレタンを使用しています。
それの何が問題かというと、ポリウレタンは劣化が避けては通れない素材で、寿命が限られているということがいえます。

もちろん形あるものには寿命があるし、すぐにダメになるとかは聞いたことありませんが、唯一の弱点を挙げるとしたら、たぶんこのポリウレタンの存在でしょう。

 

といっても、すぐに使えなくなったというのは聞いたことないので、普通に使っていれば5年くらいは何の問題もなく使えるとは思います。

▶︎ ポリウレタンの特性などについてはこちらを読んでみてください

 

最後に、僕が水沢ダウンを買わない理由は「ダサいから?」

「水沢ダウンを買いますか?」
と聞かれたとしたら、

 

「今の自分のライフスタイルにマッチしないから買わない」
というのが僕の答えです。

 

何度もいいますが、最高に良いダウンジャケットです。
デザインも品質も何の問題もありません。

 

正直ちょっと欲しいです。

 

ただ、僕の住んでいる場所が、それなりに過ごしやすい大阪という都市であることが大きいのです。
僕の生活圏内は雪も積もらないし、仕事も電車通勤。
大阪は風を通さない上着と、インナーには性能のいいフリースやニットがあれば寒い日も十分すごせるような気候です。

 

「僕にはだいぶオーバースペックで使いこなせないなぁ」と思っています。

暖かい水沢ダウンマウンテニアのバックスタイル

 

結局のところ、
「どれだけ良い服でも自分の普段の生活で活用できるかどうかが大事だな」
と思いました。(デザインに一目惚れして衝動買いすることもありますが)

 

逆に、雪が降るような地域にお住まいだったり、自転車通勤だったり、ダウンジャケットが手放せないような人には、水沢ダウンは自信を持っておすすめします。

 

自分にとってハイスペックなダウンが必要かどうかを考えて、必要ならば買って損はないと思います。

 

税込で11万円と決して安くはありませんが、野暮ったさのない、街から軽いアウトドアまで使えるハイスペックな良いダウンが欲しい人には強くおすすめできます。

 

 

 

防寒について知っておいた方がいいことを書いた記事もあるので
よかったら読んでみてください。

www.fukujipaisen.com

 

 

 

 

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