こんにちは。 洋服の生地や素材についてのブログを書いています、服地パイセンです。
アパレル製品はデザインに目が行きがち。製品として重要なのは、確かにデザインなのは間違いありません。
でもその製品を構成しているものを掘り下げていくと、生地、繊維、素材、原料と細分化されていき、それらも重要だと思っています。
今回のテーマは合成繊維の『ポリウレタン』です。
ポリウレタンが混紡されている服は伸縮性がでます。
例えばストレッチデニム。
デニムパンツは本来ゴワゴワした生地ですが、ポリウレタンのストレッチ性能のおかで着心地が格段によくなります。
しなやかに体に沿わせることができるので、デニムのファッション性も格段に上がりました。
…これくらいのことはほとんどの人が知ってると思います。でも実は、ポリウレタンはもっともっと用途は広く、身近な存在です。今回は特徴やその歴史など少しマニアックな内容をある程度包括的にまとめてみます。
この記事を読むとポリウレタンの用途や、どのようにファッションに取り入れられるようになったのかという、案外知らないことを知ることができるので、是非読んでみてください。
ポリウレタンとは?簡単に言うと何か?
このブログでは合成繊維に関することをよく書いていますが、ポリウレタンは説明が難しいので実は避けてきました。
網羅的に説明しようと思うと、用途が多すぎて説明が長くなるし難しいのです(どこを説明して何を削るかの取捨選択がたいへん)。
以前ポリウレタンの劣化についてピンポイントで書きましたが、今回は全般的に広く浅くまとめてみます。
とりあえずある程度簡単にいうと、ポリウレタンはさまざまな分子を配合することで、独自の特性を出すことができるプラスチックです。
プラスチックは硬いイメージがありますが、ポリウレタンは別名ウレタンゴムとも呼ばれるプラスチック素材。
ゴムのように柔らかく、引張り強度や耐摩耗性、弾性、耐油性に優れています。
ポリウレタン?スパンデックス?
日本の品質表示法では『ポリウレタン』と表示します。
ポリウレタン系合成繊維はヨーロッパでは『エラステン』、アメリカでは『スパンデックス』と呼ばれ、その語源は『expand(広がる)』です。
よく伸びてもとに戻るという特徴を持っています。
スパンデックスは、ナイロンや綿などの他の繊維素材と組み合わせて使用されます。
構造や製造方法について
ポリウレタンはさまざまな分子を配合することで独自の特性を出すことができるプラスチックです。
ポリウレタン系繊維は
ゴムのようなソフトセグメント(ゴム成分)と、
強度を付与するハードセグメント(樹脂成分)が結合した高分子材料です。
簡単にいうとゴムの成分と樹脂の成分のバランスや結合の仕方で特性が変わる的なことです。
化学繊維の製造方法は、
『湿式紡糸法』『乾式紡糸法』『溶融紡糸法』などがあり、詳しくは化学繊維の作り方の記事を読んでみてください。
合成繊維の製造メーカーはたくさんあり、細かな製造方法は各社微妙に異なります。
ポリウレタンの構造に関しては、網状構造糸や線状構造糸などがあり、もっともっと細分化されるようでほとんど公表されていません。そこまでくると僕もいまいちよくわからない領域です。
ポリウレタンの特徴は?メリットは何?
多くの衣類にポリウレタンが使われていることは皆知ってます。
でもどのような特徴があるのかは、伸びるということくらいしか知らない人も多いです。
伸縮性がある
ポリウレタンの最も大きな特徴は、ゴムのような伸縮性があることです。
これはポリウレタンを繊維状にしたときに特に現れる特徴でもあり、伸ばしたとき元の長さの5倍以上になります。
天然ゴムより強度が高く、伸縮性も失われにくいです。
ゴムより軽い
後述しますが、ポリウレタンは天然ゴムの代替品として誕生しました。
なのでゴムより優れている点も多く、軽いという特徴もあります。
衣類に使うとゴムどころか綿よりも軽くなるので、動きやすさが求められるスポーツウェアなどにもよく使われています。
しわができにくい
衣類にしわができてしまうのは、繊維の伸縮性がないことが原因です。
ポリウレタンは伸縮性があるので、しわができにくいという性質も持っています。
ポリウレタンの用途はかなり広い
ポリウレタンは用途が広いと書きましたが、実際にどんなものに使われるのか。
大きく分けるとフォーム系とそうでないものに分けられます。
ポリウレタンは工業用品にもよく使われる
ポリウレタンは大きく分けると、
発泡剤を加えて重合させるフォーム系と、
非フォーム系に分けられます。
その用途は幅広く、あらゆる工業製品に使用されます。
防音材や接着剤をはじてとする工業用材料、バンパーなどの自動車部品として、フォーム系は工業用品に使われることが多いです。
アパレルでは主に非フォーム系が使われる
ポリウレタンは、添加物の配合によって、さまざまな硬度や伸度に変えることもできます。
アパレルで使用されるのは、上の図の点線で囲った非フォームが主な用途で、エラストマー(ゴム)、合成皮革、ストレッチ弾性繊維、塗料、接着剤、防水剤が主です。
エラストマー(ゴム)
エラストマーって聞いたことないと思うのですが、ゴムっぽいもののことだと思ってください。
スポーツシューズの靴底などにつかわれます。
強度に優れ、衝撃吸収性も高いので、クッションとしての効果があります。
合成皮革と人工皮革
フェイクレザーです。
革製品に似せた合成皮革のコーティングなどにもポリウレタンが使われています。
▼
人工皮革と合成皮革の違いを知っていますか?シンセティックレザーとは何? - 服地パイセン
弾性繊維
ポリウレタンは衣服に利用される場合には、糸上に加工して伸縮性をもたらしてくれます。
スポーツウエアやストレッチジーンズなどのカジュアルウエア、平ゴムなどに使用されています。
化学繊維の中でもゴムのような性質をもった珍しい繊維で単独で使用せず、数%程度の混率で使用されます。
そして『ポリウレタン混紡の糸』といっても、その種類はたくさんあります。
【カバード糸】
ポリウレタン繊維を芯に、その周囲に別の繊維をまきつけたもの。
【コアスパン糸】
綿などの紡績工程で、ポリウレタンを芯に挿入したもの。
【プライ糸】
ポリウレタンと他の繊維の糸を撚り合わせたもの。
塗料、接着剤、防水剤にも使われる
液状に加工することもでき、生地表面に塗ってコーティングし、撥水・防水性をもたせることができます。
また、生地同士をつなぎ合わせる接着樹脂としても活躍します。
アパレルでのわかりやすい例としては、ゴアテックスのシーリング加工もポリウレタンが使われています。
縫い目を覆うようにカバーする生地を接着するのに、溶かしたポリウレタンを使用しています。
ポリウレタンの歴史
ポリウレタンはどのように誕生し、発展してきたのでしょうか。
工業製品として開発される
ポリウレタンはもともと天然ゴムの代替品として
ドイツで開発され、初めて実用化されたのが1930年代。ドイツ軍の靴底に使われたと言われています。
その後ポリウレタンの実用化を引き継いだのは、アメリカのデュポン社で1950年代に製品化。
日本では1960年代からポリウレタンの本格的な生産が開始され現在に至っています。
ファッションとポリウレタンの出会い
ファッションにおいて、ポリウレタンは主に衣類に伸縮性を出すために使われます。
1950年代にデュポン社がゴムのように伸縮する性質の『スパンデックス』を開発してから、その特性を生かして衣料用などにその需要が広がりました。
1950年代に女性の肌着が改良されました。
一番欲しいものを女性に聞いて回ると
「快適な肌着」という答えが多かったそうです。
それまでは吸湿性の悪いゴム製でしたが、米国デュポン社がスパンデックスを使用した快適なガードルを開発したのです。そんな新素材がガードルを変え、一気にスパンデックスの需要は拡大します。
しかし1960年代に低迷しますが、そのあとエアロビクスブームが起こり、スパンデックスをレオタードに転用することでさらに需要が伸びました。
すぐにこのストレッチ生地をワンピースやスカートに転用します。
そしてスパンデックスのドレスやスーツも登場し、人々の服装は大きく変わりました。
この伸縮性のある生地は、人々が日常的に着る服へと進化を遂げ、服飾業界に革命を起こしました。
そして現在も進化は続いています。
これからのポリウレタンは劣化に強くなる?
衣服で利用されるポリウレタンは、空気中の水分や紫外線などの影響を受けて少しずつ分解されてしまいます。
ポリウレタン=劣化しやすいイメージがありますが、実は分子構造の違いで分類でき、劣化のしやすさが全く異なります。
ポリエステル系ポリウレタンと、
ポリエーテル系ポリウレタンの
2種類が存在します。
エステル系ポリウレタンは耐水性に劣ると言われていて、水と反応して酸とアルコールに分解されてしまいます。
エーテル系ポリウレタンの特徴は、基本的に加水分解を起こしません。水の影響を受けない分子構造になっているからです。
他にも加水分解や酸化の影響を受けない、ポリカーボネート系ポリウレタンも開発されているようですが、高価ですし僕もあまりよくわかりせん。
ポリウレタンが劣化するとどうなるか書いた記事もあるので読んでみてください。
▼
ポリウレタンは劣化しやすい!フリースの洋服から粉がでたので対策や用途をまとめました。 - 服地パイセン
最後に
ポリウレタンについてまとめてみました。
ポリウレタンは化合物によって無限の可能性を秘めています。
成分は石油由来なので、環境に良くないと思われることが多いです。
環境に良くないものが多いのは事実です。
ですが、実は環境に配慮されたサステナブルなポリウレタンも開発されていて、特に欧州では採用されだしています。
合成繊維について書いた記事もあるので、よかったら読んでみてください。
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